森の瞳と虹の聲

La voix entre l’ombre et la lumière

La voix entre l’ombre et la lumière

Chapitre XXI

色のつく夜

色のつく夜

触れた夜が

まだ続いている

色を変えて

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着信音が、 部屋の空気をふっと切った。 エリーは画面を見て、 わずかに眉を寄せる。 フランスの番号だった。 「……仕事だ」 声はいつも通りで、 それなのに、 どこか遠い場所へ引かれていく響きがあった。 「少し確認して、折り返す。一度、ホテルに戻る」 翠すいは静かに頷いた。 「……ぼくも、少し歩くよ」 説明ではなく、 ただの選択。 夜には、 それだけで十分だった。 外に出ると、 冷えた空気が頬に触れる。 都会の光が、 遠くでざわめいている。 別れ際、 翠は一歩だけ近づいた。 ほんの一瞬迷ってから、 そっと腕をまわす。 抱きしめるほどではなく、 逃げ道を残す、 短い抱擁。 頬が自然に寄り、 その近さだけが、 確かな温度として息をした。
「……また」 「……会いたい」 低く、 揺らぎのない声だった。 エリーはわずかに固まり、 それから、 抱きしめ返す腕に静かな熱をこめた。 「……ああ」 短い返事を残し、 足早に夜へ滲んでいく。 姿が角を曲がって消えるまで、 翠は立ち尽くしていた。 夜の色が、 ゆっくり戻る。 歩き始めると、 街の音がいつもより柔らかく聞こえた。 車の音、 人の声、 風の抜ける気配。 その全部が、 胸の奥のあたたかさと混ざり合う。 落ち着いているのに、 どこかだけ速い。 また、会いたい。 ただ、 それだけが残る。 東京タワーが、 いつもより近く見えた。 翠はベンチに腰を下ろし、 無意識に携帯を手に取る。 ライブ配信アプリを開くまでに、 ほとんど迷いはなかった。 口笛で、 短い旋律。 夜に溶ける、 細い音。 それから、 囁くように歌う。
ふれた君のくちびるが やわらかくてあたたかい 耳もとで落ちた声が 胸の奥をそっとゆらす ほんの数行。 息の温度だけが、 残った。 コメントが流れ込む。 ──本人? ──どこ!? ──まだ東京? 翠ははっとして顔を上げる。 「……しまった」 外だった。 慌てて配信を切り、 立ち上がる。 それなのに、 歩き出す足は軽かった。 以前なら、 しなかった。 でも今は、 そのままにした。 夜の中を歩きながら、 翠は思う。 この鼓動も、 連れていける。 足は止まらなかった。
着信音が、 部屋の空気をふっと切った。 エリーは画面を見て、 わずかに眉を寄せる。 フランスの番号だった。 「……仕事だ」 声はいつも通りで、 それなのに、 どこか遠い場所へ引かれていく響きがあった。 「少し確認して、折り返す。一度、ホテルに戻る」 翠すいは静かに頷いた。 「……ぼくも、少し歩くよ」 説明ではなく、 ただの選択。 夜には、 それだけで十分だった。 外に出ると、 冷えた空気が頬に触れる。 都会の光が、 遠くでざわめいている。 別れ際、 翠は一歩だけ近づいた。 ほんの一瞬迷ってから、 そっと腕をまわす。 抱きしめるほどではなく、 逃げ道を残す、 短い抱擁。 頬が自然に寄り、 その近さだけが、 確かな温度として息をした。
「……また」 「……会いたい」 低く、 揺らぎのない声だった。 エリーはわずかに固まり、 それから、 抱きしめ返す腕に静かな熱をこめた。 「……ああ」 短い返事を残し、 足早に夜へ滲んでいく。 姿が角を曲がって消えるまで、 翠は立ち尽くしていた。 夜の色が、 ゆっくり戻る。 歩き始めると、 街の音がいつもより柔らかく聞こえた。 車の音、 人の声、 風の抜ける気配。 その全部が、 胸の奥のあたたかさと混ざり合う。 落ち着いているのに、 どこかだけ速い。 また、会いたい。 ただ、 それだけが残る。 東京タワーが、 いつもより近く見えた。 翠はベンチに腰を下ろし、 無意識に携帯を手に取る。 ライブ配信アプリを開くまでに、 ほとんど迷いはなかった。 口笛で、 短い旋律。 夜に溶ける、 細い音。 それから、 囁くように歌う。
ふれた君のくちびるが やわらかくてあたたかい 耳もとで落ちた声が 胸の奥をそっとゆらす ほんの数行。 息の温度だけが、 残った。 コメントが流れ込む。 ──本人? ──どこ!? ──まだ東京? 翠ははっとして顔を上げる。 「……しまった」 外だった。 慌てて配信を切り、 立ち上がる。 それなのに、 歩き出す足は軽かった。 以前なら、 しなかった。 でも今は、 そのままにした。 夜の中を歩きながら、 翠は思う。 この鼓動も、 連れていける。 足は止まらなかった。